【ウサギ】究極の毛玉生物・フワフワに埋もれるアンゴラウサギとの暮らし

アンゴラ……ウサギを飼っている人の憧れのひとつ。価格の高さもさることながら、飼育の難しさからペットウサギの頂点ともいわれるアンゴラウサギ。その毛からつくられる織物アンゴラもまた高級品です。憧れのアンゴラと暮らす方法はいかに。

アンゴラウサギの歴史

アンゴラウサギの故郷はアジアの果つる場所アンゴラ地方。トルコの首都アンカラ付近です。アンゴラ原産の毛の長いウサギがフランスに持ち込まれ、毛を取るためのウサギとして品種改良されました。

フランスで刊行された1765年の百科事典にはアンゴラウサギに関する記事が掲載されています。アンゴラ兎毛を収穫するために古くから飼育されてきました。原種はトルコ・アンゴラ生まれですが、毛を刈るための品種の原産国はフランスだといえます。

フランス産のアンゴラ兎毛は主にイギリスに輸出されていました。第一次大戦後はイギリスやイタリア、ベルギー、ドイツでも繁殖が始まります。イギリスではペット用アンゴラウサギの品種改良が進み一般家庭でも飼われるようになりました。

日本に入ってきたのは明治時代です。大正から昭和初期には養兎業が盛んになり飼育頭数が世界一になったこともあります。

今でもアンゴラウールは高級織物として取引されていますが、毛を採取する方法が問題視され日本ではペットとしての飼育が主になっています。

アンゴラウサギの特徴

長くなると10cm以上になる被毛が特徴です。毛が伸びた状態のアンゴラウサギは毛玉の上からぴょこんと耳が飛び出しているように見え、どこに顔があるのかわからないくらいです。

いかにも優雅な外見の通り、穏やかで人によくなれます。スキンシップが好きでブラッシングや抱っこも嫌がりません。

反面、神経質な面があり、ストレスには弱く、環境の変化で体調が崩れやすいため注意が必要です。

アンゴラウサギ、5つのタイプ

現在、普及しているアンゴラウサギは4種類ですが、ここに絶滅危惧種の日本アンゴラ種を入れて5タイプになります。

・イングリッシュアンゴラ

イギリス原産です。最初からペット用として品種改良されたため、アンゴラ種の中では最小です。日本でアンゴラウサギといえば大抵イングリッシュアンゴラのことです。

丸い頭に短い耳、体はもちろん顔にも足にも飾り毛(タッセル)がみっしりと生えているので毛玉そのもので、ペットとしての人気は一番です。平均体重は約3kgです。

・フレンチアンゴラ

フランス生まれです。元はイングリッシュアンゴラと合わせてアンゴラウーラーとよばれていました(ウーラーはWooler)。顔はタマゴ型。顔と耳、脚の毛は短毛です。体の毛はボリューミーなので羊のようなシルエットをしています。

体を覆っているトップコート(上毛)が硬めなので毛が絡まりにくく、毛のお手入れがアンゴラ種の中では比較的楽です。平均体重は4kgです。

・サテンアンゴラ

カナダで改良されました。光を反射して輝く半透明のサテンのような美しい被毛が特徴です。耳の先と頬にタッセルがあるため、耳が曲がった角に、頬のタッセルがひげに見えヤギのような顔つきをしています。平均体重は4kgです。

・ジャイアントアンゴラ

アメリカで生まれた毛用種で一番大きいアンゴラです。商業利用が目的なので生産性がいいよう被毛にボリュームがあります。アンゴラ種はカラーバリエーションが豊富なのですが、ジャイアントアンゴラはアルビノなので目の色は赤、毛色はホワイトだけです。白の方が織物にする際、好きな色に染色できるため特化されました。平均体重は5kgです。

・日本アンゴラ種

大正から昭和にかけて日本の養兎業が盛んになったとき、イギリスから輸入された3種のアンゴラウサギをベースに日本でつくられました。3種のいいとこ取りを狙った毛用種です。飼育頭数は戦前63万匹にまで達しました。戦中は軍需に利用され生産増を要求されますが、国の買取価格が生産コストを下回り廃業する業者が相次いで徐々に衰退し、戦後の残数は11万匹まで落ち込みました。高度成長期にも需要は回復せず、今は兵庫県で数頭が飼育されているだけになってしまいました。

平均体重は3kg、ジャイアントアンゴラと同じ白い体に赤い目のアルビノ種です。

アンゴラウサギの飼育は上級者向け

・毛のお手入れがひと苦労

日本で普及しているのはイングリッシュアンゴラです。フサフサの体毛が美しいのですが、その長さは10cmを超えます。かつ、繊細ですぐに絡まってしまいます。絡まった毛には汚れがつきやすく、そのままにしておけば皮膚病を引き起こす原因になります。絡まった毛玉を飲み込めば毛球症を起こし死んでしまうこともあります。

毎日のブラッシングは欠かせず、手順も大変です。
最初は素手で毛をとかしながら絡まった部分をほぐします。この時に抜け毛は取り除いておきます。
スリッカーブラシと毛のブラシを使い分けながら毛並みに沿って整えます。皮膚に異常がないかも確認してください。

絞ったぬれタオルで全身を拭いて、最後にブラシと素手で整えて仕上げます。

お尻まわりは特に汚れやすく絡まりやすいので丹念に行います。

汚れがひどい場合はぬるま湯でその部分を洗います。ウサギは濡れるのが大嫌いですからよほどのことがない限り全身を一度に洗ってはいけません。アンゴラウサギは環境の変化に敏感なので特に注意が必要です。

毛を伸ばしたままにしておくと、前が見えなくなりストレスの原因になり、脚に絡まって動きづらくなります。定期的なカットが必要です。

・温度管理もしっかりと

ウサギは急な温度や湿度の変化が苦手です。アンゴラウサギは全身を密集した毛で覆われているので余計敏感です。適温は14℃〜21℃。夏場は毎日の冷房と除湿欠かせません。真冬も寒すぎるときはペット用のヒーターや電気マットで体温が下がらないようにしてください。

飼育グッズにも汚れ対策を

飼育グッズも毛が汚れないための対策が必要です。

・ケージ

ケージは通常のウサギ用のものではなく金網式のものも用意しましょう。床面がトレイになっているタイプでは排泄物ですぐに毛が汚れてしまいます。フンや尿が下に落ちる金網式がベストです。ケージの汚れもこまめに落とすようにします。

ウサギは広すぎる場所に不安を感じますから、ケージの広さはウサギが問題なく方向転換できるくらいが適当です。

・餌入れ・水入れ

餌がひっくり返ると毛が汚れる原因になります。固定式のものか重さのある陶器製ものを選びます。同じ理由で水入れもケージに固定できるボトルタイプがおすすめです。

飼育する場合に特に注意すること

アンゴラウサギを飼う上で一番大切なのは“毛を汚さないこと”です。養兎業の方は美しい毛を取るために一日中ウサギの世話に追われています。程度の差はありますが、これは家庭でも同じ事です。動いている状態で美しさを保つのは、刈り取った毛を洗うこともできる商用の飼育よりも難しいかもしれません。

被毛のお手入れをクリアできれば、あとは普通のウサギの世話と大差ないともいえます。アンゴラの毛にどれだけ尽くせるかがポイントです。


まとめ)アンゴラは着てよし、飼ってよし

近年、アンゴラウールの採毛は動物愛護に反するとして批判的な声が強く養兎業は厳しい状況に置かれています。アンゴラの採毛は動物を殺して生皮を剥ぐやり方とは違います。羊のように毛だけをとって、毛を刈った後も次の採毛ができるよう大切に扱われます。ウサギに負担のかからない季節を選んで毛を刈り込んだり、時間をかけて長い毛だけを抜いていくのが本来のやり方です。

しかし生産性を優先するため、皮膚を傷つけるような刈り方をしたり、長い毛だけを選別して抜くのではなく一気に皮を剥ぐように毛を抜き取る方法をとる業者が数多くいて、そういった映像がネットを介して世界に広まったこともあり、アンゴラウールをいわゆる毛皮と同様に忌み嫌う人が多くなってしまいました。

アンゴラウサギは、その容姿から愛玩動物として愛でられ、長くて美しい毛を織物として利用してきた歴史があります。織物としての価値があるからこそ、今の姿で残ることができました。

アンゴラウサギは一緒に暮らして幸せ、その毛からできた織物を羽織る幸せの両方を与えてくれます。人とアンゴラの本来の関係を崩すことなく、この先も一緒に歩んでいけるよう、ウサギ好きとして考えていきましょう。

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