犬は先祖の狼と同じに群れをつくって暮らす本能を持っています。複数の仲間がいることは犬にとって幸せなのです。しかし、今の犬は飼い主とその家族を群れの仲間だと思っています。そこに新人が加わるのですから、犬、飼い主とも相応の覚悟と準備が必要です。
今回は、初めて多頭飼いをするという飼い主さんにもわかりやすく、メリットやデメリット、注意点についてご紹介します。
多頭飼いのメリットは「犬の幸せ」
犬にとって同じ生活圏に仲間がいるということはごく当たり前のことです。もともと犬は群れで暮らす習性を持っているからです。
1.犬は群れをつくる生きものです
現在の狼と同じく、本来、犬は群れをつくる習性があります。野生時代の犬は広い場所で獲物を狩って生きていました。自分よりも大きな獲物を狩るためには一匹よりも集団で襲った方が有利だったのです。
祖先の本能を引き継いでいますから現在でも犬は集団で暮らすことを嫌がりません。よほど相性の悪い相手ではない限りむしろ喜びを感じているはずです。
2.一頭でも群れだと思っている
一頭で飼われている犬でも犬自身は「ひとり」だとは思っていません。一緒に暮らしている人間を「群れの仲間」だと認識しています。
犬と一対一では気づきにくいかもしれませんが、子供がいる家庭などでは犬は順列を決めています。
犬の行動を観察していると、誰が自分より下で、誰が同等で、リーダーは誰、と思っているのかがわかります。
3.自分がリーダーだと思う危険性
飼い主のことを群れのリーダーまたは自分より上の存在だと認識していればよいのですが、1頭飼いの場合、飼い主が可愛がりすぎて、なんでも犬を最優先にしてしまうと「この群れのリーダーは自分だ」と思い込んでしまうことがあります。
部屋飼いがあたりまえになり、犬と接している時間が増えた現代では、「自分がリーダー」だと勘違いしている犬のほうが多いかもしれません。
自分が一番だと思っている犬は、当然のことですが飼い主のいうことを聞きません。
無理にしつけようとすれば牙をむいて怒ることもあります。
4.多頭飼いのメリット
多頭飼いの場合、犬たちは自分たちで群れのルールを決めていきますので、いい意味での自主性が育ちます。
例えば、新しく入ってきた犬が飼い主に対して攻撃的に吠えたりすれば、リーダー格の犬がその子をいさめます。
飼い主も複数の犬の面倒を見なくてはいけませんから1頭だけを過保護にするわけにもいかず、自然と全体に目が行き届くようになり、犬たちからもリーダーとして認めてもらいやすくなります。
多頭飼いの犬は、飼い主が放っておいても犬同士でじゃれ合ったり、追っかけっこをしたりと運動量も一頭飼いの犬よりも増えるのもメリットです。
多頭飼いのデメリットは「やきもち」
“やきもち”は人間特有の感情ではありません。動物たちにもお互いにやきもちを焼き合うことがあります。
一頭だけで飼い主の愛情を独り占めしてきた子にとっては「新しい同居人」は大きなストレスでもあるのです。
1.ある日突然、ライバル出現!
人間の子供でも、兄弟ができると嬉しい反面、親の愛情をとられてしまう気がして弟や妹に対してライバル心を燃やします。それがストレスになり、ワガママや赤ちゃん返りといった行動に現れます。
犬の場合も同じです。
今まで、一頭だけで飼われてきた犬は一緒に暮らしている人間を「群れの仲間」と認識しています。
自分だけが“犬”という別の種類の生きものだとは自覚していません。
そこにいきなり、新しい生きものが割り込んでくるのですから、ビックリして大きなストレスを感じるはずです。
2.体調不良でアピール
新人を見て、吠えついたり威嚇したりする子、飼い主の後ろに隠れてしまう子、相手にしない子、いきなり舐めてやる子、遊んでやる子と態度は様々ですが、それはその子の性格が行動に表れているだけで、どの犬もストレスを感じていることに違いはありません。
ストレスのあまり、食欲が落ちたり、下痢や嘔吐など体調を崩すこともあります。
多くの場合は2〜4週間程度で復調します。
時間がたてばリーダーである飼い主が受け入れたものは群れの仲間だと認めることができます。
新しい犬を飼ったときは、ついついそちらにばかり目がいってしまうものですが、先住犬にこそ多くのを向けてやることを忘れないでください。
そういった飼い主の配慮が「この子は自分が守ってやらなければいけない存在なのだ」と先住犬に思わせ、双方の犬を安心させることができるのです。
多頭飼いで気をつけたい4つの注意点
ドッグランなどで犬たちが思いっきり走り回って、じゃれ合っている姿を見るのは飼い主にとっても楽しく嬉しいものです。
犬は犬同士で遊ぶのが一番。だからといって安易に犬の数を増やすのは考えものです。
- 先住犬のストレス
- 病気や怪我の不安
- 散歩時の気配り
- 経済的な負担
など飼い主の責任と負担も頭数に合わせて増えることを忘れないでください。
1.先住犬のストレス
先住犬にとって新しい仲間は喜びであると同時に、飼い主の愛情や自分の居場所、ゴハンを奪われる大きなストレスでもあります。
ストレスから体調を崩してしまうこともあります。
下痢や嘔吐、食欲不振、散歩に出たがらないなど様々な形で現れます。
数週間で慣れるはずですが、症状が重い場合は動物病院で医師の診察を受けましょう。
体調不良の改善だけでなく精神を安定させる処方もあります。
できれば迎え入れる前に先住犬との顔合わせを済ませておきたいところです。
2.病気や怪我の不安
新しい仲間は(家で生まれた場合を除き)外からやってきます。
ある程度の期間、別の環境で育っているのですから、新しい感染症や病気を一緒に持ち込んでくる可能性があります。
新人のワクチン接種やノミ、ニなどの寄生虫がいるかいないかのチェックはもちろんのこと、先住犬にも混合ワクチンを接種しておくことやノミ、ダニなどの害虫予防を行っておきましょう。
できれば、1週間くらいは、直接ふれあうことや、同じ器からごはんを食べることを避けて様子を見るといいでしょう。ケージで隔離しておけばお互いが慣れる準備期間にもなります。
大型犬と中型、小型または成犬と仔犬の場合、片方が普通に遊んでいるつもりでも相手に大けがをさせてしまう可能性がありますから、最初のうちは目を離さないようにします。
3.散歩時の気配り
犬の数が増えれば散歩時の気配りもそれだけ増えます。今までは仲良しにしていた他の犬でも新し子を気に入らないかもしれませんし、新しい子が他の犬を嫌がることもあります。
無理に引き寄せれば本気で喧嘩を始めてしまうかもしれません。
いつもの散歩コースで出会う犬でも、まずは距離を置くことが大切です。
大型犬と小型犬、成犬と仔犬の組み合わせでは運動量が違いますから、一緒の散歩の後、大型犬や成犬はもう一度充分に運動させる必要があります。
4.経済的な負担
多頭飼いで一番の負担は、やはり“お金”です。
買い始める前に経済的に考えてみる必要があります。
・餌代
犬種や年齢が違えばそれぞれに別のものを用意しなくてはいけないかもしれません。
・医療費
これが一番の負担になるはずです。数年遡って先住犬にワクチンや診察料、防虫剤などでいくらかかったのか計算してみましょう。
・雑費
トリミング代、ペットホテル代、おやつ代などなど。
・避妊・去勢費用
性別の違う犬を多頭飼いする場合、仔犬を産ませるつもりがないのであれば避妊・去勢手術は必要です。
多頭飼いの注意ポイント
最後に多頭飼いの注意点をまとめておきます。
○飼えるかどうか環境を考える
・経済状態
・自宅の広さや近所、散歩コースの状況
・犬と過ごす時間を充分にとることができるか(運動量の問題)
・先住犬との相性(年齢、犬種)
○実際に飼うときにしておくこと
・先住犬、新人ともにワクチン摂取、害虫予防
・受け入れ前に先住犬との顔合わせ
・ケージなど新人犬の居場所の確保(先住犬の居場所を奪わせない)
・隔離期間を設ける
・散歩時に出会うお馴染みさんでもまずは要注意
多頭飼いはそれだけ飼い主の負担が増えることを自覚してください。
まとめ
多頭飼いは、犬にとっても飼い主にとっても幸せな状態だといえます。犬好きにとって数匹の犬に囲まれているのは考えるだけでも楽しいものです。
ただし、それには複数の犬を飼えるだけの環境と経済力が不可欠です。無理をして、新しい子はおろか先住犬まで不幸な目に遭わせるのではなんにもなりません。
生きものを飼うのは命を預かること、それなりの覚悟が必要だということを忘れないでください。